前の記事からの続きです。“GPIF国内保有株の時価総額ランキング”についてです。GPIFとは、年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension
Investment Fund)の略で、いわゆる、私たちの年金を管理している組織です。運用資産は140兆円規模で、年金基金の中で世界一の運用資産規模を誇ります。GPIFの運用資産は、年金の原資となるわけですから、資産は慎重に管理されています。投資先の一つに国内株式がありますが、当然、国が考える、投資に適切な会社の株が購入されます。特に製薬業界は国の規制産業であるので、保有株数の多い会社は、国から評価されている会社なのではないでしょうか。
GPIFの国内保有株は今までは公表されていませんでしたが、2016年からは公表されるようになりました。毎年7月に、その年の3月に保有していた資産が公表されます。
今回紹介するランキングは、2016年3月時点のデータを基にしています。2017年分は7月に公表されるようなので、またそのときに追加でランキングを作成するかもしれません。
<GPIF国内保有株の時価総額ランキング(2016年度3月末)>
製薬会社名 |
時価総額(GPIF保有株)
|
GPIF保有割合(%)
|
|
1
|
武田薬品工業
|
3165億円 | 7.7 |
2
|
アステラス製薬
|
2571億円
|
7.7 |
3
|
小野薬品工業
|
1549億円 | 5.5 |
4
|
大塚HD
|
1419億円 | 6.1 |
5
|
第一三共
|
1353億円 | 7.5 |
6
|
エーザイ
|
1216億円 | 6.0 |
7
|
塩野義製薬
|
1206億円 | 6.4 |
8
|
中外製薬
|
512億円 | 2.6 |
9
|
参天製薬
|
486億円 | 6.9 |
10
|
田辺三菱製薬
|
424億円 | 3.8 |
11
|
協和発酵キリン
|
346億円 | 3.3 |
12
|
大正製薬HD
|
323億円 | 4.0 |
13
|
久光製薬
|
266億円 | 5.5 |
14
|
ツムラ
|
188億円 | 9.7 |
15
|
沢井製薬
|
170億円 | 6.3 |
16
|
ロート製薬
|
147億円 | 6.1 |
17
|
大日本住友製薬
|
144億円 | 2.8 |
18
|
日医工
|
98億円 | 6.2 |
19
|
キョーリン製薬HD
|
94億円 | 5.8 |
※(GPIF保有割合)=(2016年度3月GPIF保有株数)/(2016年度3月末発行済み株数)
※興和は上場企業ではないので、今回のランキングでは除外した。
売上ランキングと比較すると、小野薬品、塩野義製薬、参天製薬の大阪勢が国から評価を受けているようです。
小野薬品の評価は、やはり免疫チェックポイント阻害剤オプジーボの開発が大きいでしょう。多くのガン患者に福音をもたらす、画期的で素晴らしい薬剤です。ただし気になる点としては、国内でオプジーボを販売拡大するために人員を増加させている点で、8年後に特許が切れたあとにその人員を維持できるかが課題です。
塩野義製薬の評価は、抗HIV薬であるテビケイとトリーメクがブロックバスター化したことや、厚労省の先駆け審査指定制度を取得した、新規機序のインフルエンザ薬「S-033188」の開発の期待の表れでしょう。ただし気になる点としては、名経営者と名高い、手代木社長(現IFPMA(国際製薬団体連合会)副会長)の後継者はいるのかが長期的な課題です。
参天製薬の評価については、私の勉強不足で分かりません。営業利益率が高水準だからでしょうか。眼科領域に特化し、海外売上比率を上げていく目標を掲げており、グローバルスペシャリティファーマを目指しています。日本から世界に打って出る姿勢を感じますので、応援していきたいと思っています。
一方で、大日本住友製薬の評価は芳しくありません。経営状況が悪化し、1200人(全社員の3割)の早期退職の募集を行っています。2019年のラツーダ(統合失調症薬)クリフを乗り越え、歴史ある名門企業の復活を期待しています。
GPIFは製薬会社の各社において、平均で6%の株を所有する大株主です。つまり、私たち社員が、自社や製薬業界をより良いものにしていくことで、その利益は年金にも還元されます。製薬業界を志す者の志望動機として、病気で苦しんでいる患者さんを助けたい、医療の費用対効果を良くしたい、といった社会貢献を挙げる方が多いと思います(私もです。)。実は、仕事にしっかりと取り組むことで、年金制度の維持という社会貢献が自然にできているのです。製薬業界は、社会貢献に繋がる、非常にやりがいのある業界だと考えています。
今回の記事のアイデアは、私が愛読している(年間購読もしている)「医薬経済」という雑誌から得たものです。「医薬経済」は業界紙であるにも関わらず、業界の批判記事も含まれているという珍しい雑誌です。製薬業界にいる者にとって、そういった批判を真摯に受け止め、次に繋げていくことは非常に重要ではないでしょうか。
初めまして、しらぬいさん。
返信削除いつもブログを読んで勉強させていただいております。
私は私大6年制薬学科に通う、現3年の者です。色々な職種を調べていくうちにMSLという職に興味を持ちました。そこで質問なのですが、現段階からこの職業に就職するために個人的に「こういったスキルや経験を身に着けた方が良い」と思うものはありますか。恐らく競争率が高いので、他の人とどう差別化を図るかが重要ではないかと考えています。
ご返信、よろしくお願いします。
こんにちは!ブログをいつも読んで頂き、そしてコメントも頂きまして、ありがとうございます。
削除大学3年生という早い時期から、先を見据えて行動しているのは素晴らしいことです。就活までの約3年間で、他の就活生と大きく差別化できるのではないかと思います。個人的に必要だと考えるスキルや経験についてですが、まずは「薬剤師としての知識」は、医療従事者との共通言語として、しっかり身に付けておく必要があります。それに加えて、必要だと考えていることを下記に3点挙げさせて頂きます。
◆英語文献を読み込む能力
先生とディスカッションするには、文献を読んで理解してポイントを説明できる必要があります。できれば、たまにでもいいので、Nature, Science, Cellなどの英語雑誌の興味ある箇所を精読することや、(さらにハードルは高いですが)留学に行くことで、英語に対して自信が持てるようになります。
◆相手に合わせたコミュニケーションを取る能力
当然ディスカッションする先生ごとに性格が異なります。相手に合わせたコミュニケーションが取れれば、より会話が弾み、より上手くディスカッションができます。MSL職は、ポジションが高い先生とのやり取りが多いので、特に年配の方とのコミュニケーションの慣れは必要です(就活の面接選考時にも必要ですね。)。
◆MSL職についての情報収集
MSL職の情報は限られています。今回ブログで質問をしてくれたように、積極的に情報収集して、MSL職について理解を深めた方が良いかと思います。人によって必要だと考える能力は異なりますので、自分が必要だと納得できる能力について、身に付けていくのが良いかと思います。
実は、上記の3点は、私が就活の時にはあまりできていなくて、できていれば良かったと今思っていることです。上の2点は、今も身に付けようと努力しています。これらがしっかりできていれば、他の就活生とも差別化ができますし、MSL職に限らず、多くの職種&多くの業界で求められる人材なのではないかとも考えています。
また何かMSL職などで気になることがあるならば、気軽に連絡をくださいね。できる限りのことはお答えしたいと思っています。
丁寧なご回答ありがとうございます。
返信削除うちの大学では病院や薬局に就職する方が多いので、なかなか情報を得づらい状況です。そんな中で実際に勤めていらっしゃる方がこのような場を用意してくださり、とても嬉しいです。特に英語やコミュニケーションは漫然と大切だとは分かっていながら、得意な方ではないので後回しになっていました。重要性を改めて知ることが参考になりました。なかなか簡単ではない道のりかもしれませんが、希望が持てたような気がします。
今後ともよろしくお願いいたします。
確かに情報源は限られていますね。
削除最近では少しずつではありますが、ブログで情報発信している方も増えてきているので、
気になることは質問していくと良いかもしれませんね。
SeptenさんがMSL職に就職して、一緒の業界で働けることを楽しみにしています!