2017年6月25日日曜日

院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド‐「博士余り」時代を生き抜く処方箋


 私が修士時代に、修士課程修了で就職するか、それとも博士課程に進学するかを決めるのに参考にした本です。この本のおかげで博士課程以降のキャリアプランをイメージすることができました。
著者の菊地俊朗先生は、大型競争的研究資金である「CREST」や「さきがけ」等の技術参事として活動された経験があり、多くの研究案件を審査されています。本書では、院生とポスドクの環境は厳しいと述べながらも、それでもなお研究者を目指す者に対して、応援の意味も込めて、研究人生の“サバイバル”法を伝授するという内容になっています。
大学の研究者として“サバイバル”するために、進路で気を付けるべきこと、研究テーマの選び方やアイデアの発展の方法、独立した研究者になるためにするべきこと、取るべき研究戦略、特許取得のメリット、が書かれています。そして、人生を“サバイバル”するために、大学の研究者以外のキャリアパスについても書かれています。

 私が重要だと感じた箇所についてまとめます。
博士号を持つ最高の人材であるはずのポスドクが余るという、いわゆるポスドク問題の元凶になったのは、政府主導による「大学院生倍増計画(1991年)」と「ポスドク1万人計画(1997年)」です。これらの計画により、大学院生とポスドクは増加しました。大学院生数は、約98000人(1991年度)から約262000人(2006年度)へ増加し、ポスドク数は、目標を大幅に超過し、2012年度には約17000人と増加しました。しかしながら、日本の産業界は博士号取得者採用に消極的であり、かつ大学のポストは減少傾向にあるので、社会に出て活躍する博士取得者の割合が毎年60%という低い値になっています。
なぜ大学のポストが減少しているかというと、大学の法人化と構造改革により、国の予算配分の方法が変更されたからです。運営費交付金が削減されていく一方で、競争的研究資金が増額されています。つまり国の方針としては、選択と集中によって、優れた研究に重点的に資金を配分するということです。国の方針を受けて、大学としては、固定費となる常任ポストの人件費を削減し、その代わりに費用調整が容易な任期制研究者を増加させています。
 ポスドクが置かれている環境は厳しいですが、その中でポスドク個人としては何をすれば良いでしょうか。それは“競争的研究資金を獲得できる研究者になる”ことです。国の予算配分が競争的資金への割合が高くなる中で、資金を獲得できる研究者は研究室で重宝されるからです。
 “競争的研究資金を獲得できる研究者になる”ためには、“研究戦略を考える研究者になる”必要があります。研究戦略もあくまでも“戦略”ですから、ビジネスで多用される戦略法が応用できます。例えば、ポートフォリオマネジメントやSWOT分析やコアコンピタンスによって、自研究室の特徴や他研究室との違いを把握できて戦略に活かせますし、ランチェスター戦略の「弱者の戦略」によって、立場の弱い若手研究者は、他の研究者に立ち向かうことができます。また一方で、若手研究者は他の研究者と協力して共同研究をするという戦略を取ることも大事です。それは若手研究者は研究資金が少なく研究環境が整っていないことが多いので、その不足部分を補うためです。共同研究をするためには、普段から他分野の人脈ネットワークを広げること、自分の研究分野での強みを把握しアピールすることが必要です。

 私自身は研究から離れた身ではございますが、菊地先生同様に研究者を応援したいという気持ちがありますし、仮説を検証するために忍耐強く研究を継続する研究者は尊敬しています。菊地先生が言う、戦略を考え実行できる科学者になれれば、研究者としてだけではなく、企業等の組織人としても成功できるのではないかと思います。技術立国を目指す日本にとって、博士号取得者は重要な人材ですので、ぜひ“サバイバル”して各分野で活躍して頂きたいと考えています。

4 件のコメント:

  1. 素敵なブログをありがとうございます。私は現在、海外の博士課程在籍中で卒業後は製薬企業で開発、又は、MSLとして働き、将来的には経営に関わるような仕事がしたいと考えております。そこで質問なのですが、MSLとして一緒に働かれている同僚の方のうち、どのくらいの方が博士号を取得していますでしょうか?また、海外大卒の学生用に特別採用をしていたりもしますでしょうか?(ボストンキャリフォーラムも確認しているのですが、近年、製薬企業の数が少なく、採用も学部卒の学生を対象としたMR対象が多いようです。)お忙しいところ申し訳ありませんが、ご教授いただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

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    1. コメントありがとうございます。私と目指す方向が近く、ぜひ応援したいと思いますので、できる限りお答えします。また何か疑問がありましたら気軽にご連絡をください。

      【博士号の割合について】
      弊社では今のところ約10-20%ですが、年々割合が増えているように思えます。また友人が所属する外資系企業では、博士号の割合が多いと聞いています(具体的な数値は不明)。

      【海外大学卒の学生用の特別採用枠について】
      そのような枠があるか否かは分かりません。しかしながら、治験のグローバル化等が進む中で、外国語が堪能かつ科学的思考力を有する学生を欲する企業は多いと思います。そこで、一つの手段として、会社に対してメール等を用いて直接自分を売込むのが良いかもしれません。その手段を用いることで、会社によっては特別採用ルートに進めることが、私の経験と周りの友人の話から確認ができています。ちなみに、友人はホームページに新卒採用の記載がなかった会社へMSL職採用で入社しています。

      【補足:MSL職の新卒採用について】
      実は国内で新卒採用を行っている会社は多くはありません。私が知っている限りですと、内資系企業では、シオノギ、エーザイで、外資系企業では、ノバルティス、ノボノルディスク、バイエルが行っていました。確かにボストンキャリアフォーラム2016&2017年の参加企業を見る限り、製薬会社は5社くらいで多くはないです。その中でMSL職の新卒採用をホームページで明記している企業は、シオノギのみとなっています。選択肢を増やすためにも、受け身ではなく積極的に会社にアプローチをした方が良いかもしれません。

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  2. しらぬい様
    ご丁寧なご回答をありがとうございます。
    武田製薬もメディカルアフェアーズ部門特設サイトのQ&Aでも、海外からの応募を歓迎している雰囲気もありますので、直接売り込む方法も考えながら戦略を練って行きたいと思います(年に1,2週間しか日本に帰る時間が取れないので、グループディスカッションや面接を何度も受けることができないのが難点ですが、、、)。大学学部の後輩として、OB訪問をお願いすることもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

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    1. ハードルはありそうですが、きっと上手くいくはずです!
      もし日本に帰国する際にご連絡を頂ければ、OB訪問等の時間を作れると思います(そのときは連絡先としてここに一時的にフリーアドレスを載せます。)。ここでは記載できないような話もすることができると思います。

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