製薬会社にもデジタル化の波が押し寄せている。グローバル大手Novartisは、研究開発はMicrosoftと、生産流通はAmazonと提携し、急速にデジタル化を進めている。今回は、特に各社の動きが見えづらい「営業面」のデジタル化を予測し、その影響について考察しました。参考として、Deloitteの“Predictions2020-2030”シリーズを活用しています。10年後の製薬会社のあり方が、分野別にまとめられていて、一読の価値があります。
まず、『なぜ営業面でデジタル化が進むか』についてです。主に下記の三つの理由があります。
まず、『なぜ営業面でデジタル化が進むか』についてです。主に下記の三つの理由があります。
- 効率的な情報提供:デジタルの特徴として、“安く“そして“幅広く”情報提供が可能です。営業規制が厳しくなる中で、対面での情報提供の価値は低下していきます。
- 医療従事者のデジタルへの慣れ:受け手である医療従事者がデジタルを使いこなせるようになってきたので、デジタルでの情報提供が可能になった。
- 薬価引き下げ圧力:国の医療財政が厳しくなる中で、薬価引き下げ圧力が高まり、薬価に含まれる情報提供費用の削減が要求される。その環境下で、経営者は利益を出すために、コストカットが必要になる。
次に、デジタル化が進むにあたり、『具体的にどのようにデジタルが活用されていくか』についてです。主に、「企業のホームページ」や、「m3などの医療従事者のプラットフォーム」などが活用されると考えられます。
一例として、医療従事者から評価が高いのは、Pfizerの「PfizerPRO」です。このサイトでは、医療従事者のニーズ(①医療に役立つ最新情報を手に入れたい、②オピニオンリーダーの講演を聴きたい、③有名ジャーナルの内容を確認したい、④製品に関する疑問に答えて欲しい)を満たす情報を、入手しやすいように設計されています。また、より専門的な情報を得たい場合には、専門MRと「web面談」を実施することも可能になっています。
重要なのは、いかにニーズを満たしていくかということです。具体的には、サイトをいかに見やすくし顧客に満足してもらう「UI/UX向上」を目指し、そのために、2つの案を試行して良いものを選択していく「A/Bテスト」や、各医療従事者に合わせた情報提示ができるような「機械学習による因果推論」などの活用が必要です。そのために、デジタル関連の技術者と、MSLやMRといった各職種の専門家の協業が必要になります。
デジタル化の影響として、実は『日本の製薬会社に大きなメリット』があります。それは自社販路で海外進出しやすくなるということです。
以前までは、世界で自社販路を確立しようとすると、営業拠点や人員などの多大な固定費が発生し、多大な資本力が必要であったので、グローバル大手が有利でした。しかしながら、営業面のデジタル化が進めば、多大な固定費は必要なく、日本の製薬会社も海外進出しやすくなる。むしろ、各国に人員を抱えるグローバル大手と比べ、日本企業は有利に海外市場を機動的に攻められるだろう。
海外市場を攻めるために、最終的な理想形としては、「“各国の言語”で、“各国の状況”に合ったホームページの作成」が非常に重要です。各国のホームページを作成し更新していくためには、「各国担当のコーディネーター」という新しい職種が生まれます。デジタル化のノウハウがある日本本社と、各国の現地とを繋げる役割です。言語の壁を通訳に任せれば、コミュニケーションに長けるMRがコーディネーターとして活躍できるのではないかと考えています。
市場面で、現状重要なのは、売上の大きい欧米なのは間違いないですが、一方で日本企業が競争力のある市場は、売上が伸びている「アジア」であると個人的には考えています。日本企業がアジアでデジタル化を進めやすいのは、①PMDAの国際戦略によって日本の薬事規制がアジアのルールになること、②対面による丁寧な情報提供に慣れた欧米と比べて、アジアの医療従事者の受入れはハードルの低いと考えられるからです。
続いて、デジタル化の影響として、『個人にどのような影響があるか』についてです。デジタルがメインになることで、MRという役割はさらに削減されていきます。一方で、新しい役割が生まれてくると考えられます。
リンダ・グラットン著の「ワーク・シフト」で述べられているように、デジタル化によって人材の競争が世界規模になり、競争に勝つためには専門家である必要があります。例えば、web面談を実施するMRは、日本に在住する必要はないので、世界のMRとの勝負になり、疾患や薬剤の専門家として差別化が必要です。
そして専門性の高い人材を繋ぎ合わせて、一つの目的に向かわせるコーディネーターも重要になるとされています。例えば、各国に合ったデジタルな情報提供を実施するために、デジタル化のノウハウがある日本本社と、各国の現地とを繋げるコーディネーターが必要です。
ですので、これからは“専門家”と“コーディネーター”を目指すのが良いかと考えています。
引用 https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/life-sciences-and-healthcare/articles/ls/pred-v5.html
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